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Hiroki Mafuyu Blog

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2022年 04月 10日

「異色野球漫画短編集 変華球」(小学館2022/4/28)再録『サムライ』に向けて

私の仕事が世間で認知されたのは’80年代後期 SFイラスト関連の仕事からと思う

それまでの漫画業から一旦離れてイラストレーターとして出直してからのことだ

小説雑誌編集部への持ち込みから始めて 幸いすぐに仕事になった

最初はモノクロの挿絵から 徐々にカラー装丁画となり 気がつくと忙しくなっていた

当時のサイバーパンク・ムーブメントと絡めたことも大きかったのだろう

自分の資質と社会がリンクする喜び

初めて手応えのようなものを感じていた

そしてそれはイラスト&漫画作品集「ルィーズ」(’95年新潮社)出版へと繋がっていった



最初は漫画だった

前にも書いたように 私は「COM」と「ガロ」に憧れて10代を過ごした

この2冊の月刊誌で知った新人漫画家たちの斬新さ

ベテラン作家においても一般商業雑誌では見られなかった実験性の高い作品に驚いたものだ

漫画表現の豊穣さ_

いつか自分もそうなりたいと願っていた



1973年高校卒業の年「ヤングコミック増刊号」でデビュー

翌年2作目を「ガロ」に発表した

ここまでは良かったがすぐに行き詰まった

初期衝動だけで出来ることは限られている

夢見るだけでは済まされない現実にぶつかっていた

経験された方は分かると思うが

デビュー前の試行錯誤とデビュー後では意味が違う

迷い方の桁が違うのだ


そんな頃 ニ流誌から原作付きでの仕事依頼が来た

いわゆるエロ系バイオレンス劇画

私はろくに内容も確かめず引き受けることにした

とにかく漫画の仕事がしたかったからだ


内容は覚えていないが それから同様の仕事依頼が続くようになった

COM」と「ガロ」の叙情性に憧れていた22才の若者は 原作付きバイオレンス劇画を描くことで職にありつけたわけです


気がつけば月産50 原稿料単価はデビュー時の2,500円から7,000円まで上がっていった

生活は安定したが戸惑いは消えない

「漫画で食ってんだから俺は漫画家だよな」

そう思っても何かが違う

憧れのギブソン・レスポールを買ってみても空虚さは埋まらなかった

劇画の依頼は全て原作付きで 欲望と暴力を煽るものばかりに思えた

自分のオリジナルの世界を描きたかった


『サムライ』はその頃 私が24才の時の仕事だ

経緯は忘れたが 担当編集者のM氏がこちらの熱意を感じ取ってくれたのだろう

エロトピア増刊「漫画快楽号」

成人向け官能誌に36ページの野球漫画なんて普通あり得ない

我儘を受け入れてくれたM氏とKKベストセラーズ社には感謝しかない

制作時間はひと月くらいだったか


 一心不乱に描いた


これを機にポツポツと野球漫画の依頼がきた

それは後に「午後の栄光」(’86/双葉社)として一冊にまとめて貰うことができた

同時期の「K,quarter」(’86/けいせい出版)と併せて私の20代の宝物だ

K,quarter」は Rock ’n Rollの「午後の栄光」は野球選手への憧れがテーマだ


この2冊のおかげで私は持ち堪えることができた

紙一重で夢に留まることができたのだ



若い頃の仕事はリアルな日記そのものだ

昨年末 小学館より再録の依頼を受け 収納棚の一番奥から原画を引っ張り出した時 瞬時に当時が蘇った

やり場のない焦燥感と その中から未来を探し出そうと必死の思いを嗅ぎ取った


Sci-Fiイラストレーターとして私を知る人は『サムライ』をどう読むのだろうか

そのことはとても気になる

何れにせよ20代の10年間は私を鍛えてくれた

自分と向き合い 周りとぶつかりながらも愚直な青春を貫くことができた

『サムライ』はそこに咲いた仇花かも知れない

でもこれがなければその後はなかった

「ルィーズ」も「アップルズ」(19/復刊ドットコム社)もなかった


そう思うと少しドキドキする_



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by hirokimafuyu | 2022-04-10 18:05 | Essay | Comments(1)
Commented by アンバー at 2022-05-05 23:54 x
なぜ野球漫画を描かなくなってしまったの。
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