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Hiroki Mafuyu Blog

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2021年 08月 14日

谷口ジロー74回目の誕生日に

高校生の頃 東京三鷹の宮谷一彦先生の仕事場で遊ばせて貰った

正アシスタントが3人いて 戦力外の気楽さから空き机でお絵かきの真似事をさせて貰っていたのだ


最初は雑誌「プレイコミック/秋田書店」での先生の連作『青いとかげの街』だったと思う

資料写真を渡されて描いたスペインの街景画が原稿に貼り込まれた

初めて自分の絵が雑誌に印刷される興奮

東京郊外に住む高校2年生には充分過ぎる刺激だった

「ひろきも行くか?」

ある日 気分転換の散歩に出かける宮谷先生に付き添い玉川上水沿いを歩き三鷹駅の地下ガードをくぐる

北口に出て5分程歩いた先に動物漫画の巨匠 石川球太先生の仕事場マンションがあった


敷居をぶち抜いてワンルームにしたスペースは小学校の教室程の広さ

1971年当時 この規模の仕事部屋は週刊誌連載+αを抱える作家でしか持てなかっただろう

中央に机を並べて球太先生と4人のアシスタントが煙草をモクモク吸いながら仕事をしていた

その煙と男臭さ満載の場所に不釣り合いな人

それが谷口ジローだった


球太先生「タニヤン ここはいつものアレで頼むよ」

谷口さん「はい」


言葉少なに黙々と狼の群れを描き進める

特にチーフとかの肩書きはなかったが 動物のモブシーンは全て谷口さんの持ち場だった


宮谷先生にしろ石川先生にしろ〆切仕事の隙間だったはず

それでも自分は何度かそんな場所に居合わせた記憶がある

戦力外高校生の特権とはいえ なんて幸せな時間だったのだろう


そうして石川プロの人たちと仲良くなった

生活感のない高校生はいつの時代も無敵です(苦笑

一番気さくなカズオさん(後に石川球太の実弟と知る)には食事とか呑み屋にも連れてって貰った

一晩中吉祥寺を呑み歩き 気がついたら石川プロの簡易ベッドで目覚めたこともありました


しかし夢のような時間は続かない

そろそろ卒業後の進路を決めなければならない時期になり 何かの弾みで私は谷口さんを訪ね将来の相談をした


伝説の『喫茶店ホタ』真向かいのアパート2階

整理された四畳半の部屋の本棚から次々に洋雑誌や絵本が出てくる

今のようにネット情報もない時代

海外の漫画雑誌・絵本・画集の刺激はこの上ないものだった

初めて観る魔法のような画像が心にグサグサ刺さってくる


描きかけの持込み用原稿も見せてくれた

テーマを変えて制作途中のものが何編かあったと思う

私は素人の強みで勝手な感想を話した

谷口さんはそんな生意気な高校生の戯言をニコニコして聞いてくれた

あの穏やかで優しい表情はその後どれだけ彼がキャリアを重ねても変わることがなかった


そろそろ帰ろうとした頃 谷口さんがワインのボトルを出してくれた

甘ったるい赤玉ポートワインしかない時代に輸入物のワインの栓を抜いてくれたのだ

微笑みながら無言で「まぁ 頑張れよ」ということだろう

それからあっという間の50


谷口さん 74回目のお誕生日おめでとうございます!

今夜はお祝いにワインを抜きます_

谷口ジロー74回目の誕生日に_d0060251_22035332.jpg

写真は文中 谷口さんのアパート跡地現在のもの

駐車場になっていました *20210807




by hirokimafuyu | 2021-08-14 22:12 | Essay | Comments(0)
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